京都の夏の風物詩でありながら、意外と観光客には知られていない行事をご紹介します。
それが「六道まいり(ろくどうまいり)」です。
祇園祭や五山の送り火は知っていても、六道まいりまで知っている方は、実はかなりの京都通だと思います。
でもこの行事、知れば知るほど奥が深くて、京都の人々が千年以上も大切に守ってきた、心にじんとくる風習なんです。
この記事では、六道まいりの由来から参拝の作法、日程やアクセス、そして地元民だからこそ知っている裏ワザやお得情報まで、まるっとご紹介していきます。
これを読めば、あなたもきっと「六道さん」に会いに行きたくなるはずです。

六道まいりとは、いったい何なのか
まず「六道まいり」とは何かというところからお話しします。
京都・東山にある六道珍皇寺(ろくどうちんのうじ)というお寺で、毎年8月7日から10日までの4日間だけ行われる、先祖の霊をお迎えするための行事です。
地元の方々には「六道さん」という愛称で親しまれています。
京都では、お盆は8月13日から16日までとされていますが、その数日前にあたるこの期間に、先祖の霊、いわゆる「おしょらいさん」をこの世に迎えに行くのです。
なぜこの場所なのかというと、実は六道珍皇寺があるこの一帯は、平安時代には「六道の辻(ろくどうのつじ)」と呼ばれる、とても特別な場所だったからです。
平安京の時代、このあたりは鳥辺野(とりべの)という、京都でも屈指の大きな葬送地の入口にあたっていました。
つまり、当時の人々にとってここは、この世とあの世の境目、冥界への入口だと信じられていた土地だったのです。
そしてお盆前になると、あの世から帰ってくる精霊たちは、必ずこの六道の辻を通ると考えられてきました。
だからこそ京都の人々は、宗派を問わず、この時期になるとこぞってこのお寺にお参りをする習慣を千年以上も続けてきたのです。
古い言い伝えでは、精霊は槙(まき)の葉に乗って帰ってくるとされています。
そのため六道まいりの期間中は、参道にずらりと高野槙(こうやまき)を売る露店が並びます。
この光景こそが、六道まいりならではの夏の風物詩なんです。

六道珍皇寺というお寺そのものが、実はとても神秘的
六道まいりの舞台となる六道珍皇寺は、臨済宗建仁寺派のお寺で、創建は平安時代前期の延暦年間、つまり782年から805年頃とされています。
奈良の大安寺の住職で、弘法大師・空海の師にあたる慶俊(けいしゅん)が開いたと伝わっています。
このお寺で一番有名なのが、本堂の裏手にある「冥途通いの井戸」という伝説の井戸です。
平安時代の公卿であり、学者・歌人としても名高かった小野篁(おののたかむら)という人物が、なんと夜な夜なこの井戸を通って冥界へ行き、閻魔大王のもとで冥官として働いていた、という伝説が残っています。
境内の閻魔堂には、閻魔大王像と小野篁像が並んで祀られており、その独特の雰囲気に、思わず背筋がぴんと伸びる方も多いようです。
ただし、六道まいりの期間中はこの井戸や堂内の特別拝観はできませんのでご注意ください。
この期間は、重要文化財の本尊・薬師如来坐像と、閻魔大王・小野篁の像の拝観のみとなっています。
普段は静かなこのお寺が、六道まいりの4日間だけは大勢の参拝者で賑わうというギャップも、この行事の魅力のひとつだと思います。
六道まいりの日程・時間・料金
ここで、実際にお参りに行く際の基本情報をまとめておきます。
日程は毎年8月7日から10日までの4日間です。
時間はおおむね朝6時から夜22時頃までとされていますが、年によって多少前後することもあるので、お出かけ前に公式サイトなどで最新情報を確認することをおすすめします。
参拝は無料です。
拝観料などは一切かかりませんので、気軽に足を運んでみてください。
ちなみに六道珍皇寺の通常の拝観時間は9時から16時、拝観料は境内無料、特別拝観のみ800円となっています。

アクセス方法
六道珍皇寺の最寄りアクセスは、市バス「清水道」下車、徒歩約5分です。
京阪電車をご利用の場合は、祇園四条駅から徒歩10分ほどの距離になります。
清水寺や八坂の塔からも徒歩圏内なので、清水寺観光とあわせて立ち寄るのがとてもおすすめです。
なお、六道まいりの期間中は、この一帯が歩行者専用の交通規制がかかることがあります。
車での訪問を考えている方は、事前に規制情報を確認しておいたほうが安心です。
駐車場も期間中は特別料金になることがあるので、できれば公共交通機関を使うのが賢い選択だと思います。
参拝の作法、順番通りにやってみよう
六道まいりの参拝には、昔から伝わる決まった作法があります。
初めての方でも迷わないように、順番にご紹介します。
まず最初に、門前に並ぶ花屋さんで、高野槙を買い求めます。
精霊はこの槙の葉に乗って帰ってくると信じられているため、これが最初の一歩になります。
次に、本堂前で経木(きょうぎ)または水塔婆(みずとうば)に、ご先祖様の戒名や俗名を書いてもらいます。
これは僧侶や係の方が書いてくれますので、心配せずお願いしてみてください。

続いて、いよいよ「迎え鐘(むかえがね)」を撞きます。
この鐘の音は、なんと十万億土の冥界にまで響き渡ると言い伝えられています。
参拝者自身の手で綱を引いて鐘を鳴らすことができ、その独特な音色が境内に響く瞬間は、とても厳かな気持ちになります。

最後に、線香で清めた水塔婆を、賽の河原(さいのかわら)と呼ばれる地蔵尊の宝前に納め、高野槙を使って水回向(みずえこう)を行います。
こうしてご先祖様の霊、つまり「おしょらいさん」が、無事に各家庭へ帰ってくると信じられているのです。
このひと通りの作法を体験することで、京都の人々が千年以上受け継いできた祈りのかたちを、肌で感じることができます。
観光客の方でも参加は可能ですので、ぜひ手順に沿って丁寧にお参りしてみてください。
六道とは何か、その意味も知っておこう
ちなみに「六道」という言葉自体にも、深い仏教的な意味があります。
六道とは、地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天道という6つの世界のことを指します。
仏教の教えでは、人は生前の行いの因果応報によって、死後この六道のいずれかに生まれ変わり、輪廻転生を繰り返すとされています。
六道の辻という地名も、この六道の思想に由来していると考えられています。
そう考えると、この場所で行われる六道まいりという行事が、いかに古く、そして意味深いものであるかがわかってきますよね。
周辺スポットもあわせて楽しもう
六道まいりの時期は、周辺のお寺やお店でも関連する行事や名物が楽しめます。
ここではせっかくなので、あわせて訪れたいスポットをいくつかご紹介します。
六波羅蜜寺の萬燈会(まんとうえ)
六道珍皇寺から徒歩約3分の場所にある六波羅蜜寺でも、8月8日から10日にかけて「萬燈会」が行われます。
本堂内の数多くの燈明を「大」の文字の形に灯し、ご先祖の精霊をお迎えして追善回向する行事です。
このお寺でも、萬燈会が厳修される3日間だけ限定で、参拝者自身が「迎鐘」を撞くことができます。
六波羅蜜寺は天暦5年(951年)、疫病平癒を祈願して空也上人が創建したお寺で、本尊は空也上人自らが彫ったと伝わる観音立像、国宝に指定されています。
六道珍皇寺とあわせて訪れることで、京都のお盆の風習をより深く体感できるはずです。
みなとや幽霊子育飴本舗
六道の辻の碑の前には「みなとや幽霊子育飴本舗」というお店があります。
「幽霊子育飴」という、なんとも意味深な名前の飴を販売しているお店です。
この飴には、亡くなった母親の幽霊が、赤ちゃんを育てるために毎晩飴を買いに来たという、六道の辻ならではの伝説が残っています。
お土産にはもちろん、話のネタとしても盛り上がる一品ですので、ぜひ立ち寄ってみてください。

あじき路地
六道珍皇寺のすぐ南、轆轤町(ろくろちょう)というエリアには「あじき路地」という趣のある路地があります。
築100年以上の京町家を大家さんが再生し、現在はクリエイターやこだわりのお店が軒を連ねています。
昔ながらの京都らしい雰囲気を感じながら、ゆっくりお店めぐりを楽しめる、隠れた人気スポットです。
地元民だから知っている、裏ワザ&お得情報
ここからは、観光客の方にはあまり知られていない、ちょっとした裏ワザやお得情報をお伝えします。
裏ワザ① 朝一番か夕方以降を狙う
六道まいりは日中、特にお盆休みと重なる週末は非常に混雑します。
ゆったりとお参りしたいなら、朝6時の開始直後、あるいは夕方18時以降の時間帯を狙うのがおすすめです。
特に夜は提灯の灯りに照らされた境内が幻想的な雰囲気になり、昼間とはまったく違う表情を見せてくれます。
裏ワザ② 六道珍皇寺と六波羅蜜寺をセットで巡る
先ほどご紹介した通り、六道珍皇寺と六波羅蜜寺は徒歩3分ほどしか離れていません。
どちらも迎え鐘を撞ける貴重な機会なので、時間があればぜひ両方お参りしてみてください。
ただし六波羅蜜寺の迎鐘は8日・9日・10日の3日間限定なので、7日に訪れる場合は六道珍皇寺のみになる点は覚えておきましょう。
裏ワザ③ 清水寺観光とセットにする
六道珍皇寺は清水寺からも徒歩圏内です。
清水道のバス停周辺は普段から観光客で賑わうエリアなので、清水寺参拝の帰りに、少し足を延ばして六道まいりに立ち寄るというプランがとても効率的です。
観光客で賑わう清水坂とは対照的な、京都の人々の生活に根ざした静かで厳かな信仰の空気を味わえるはずです。
裏ワザ④ 高野槙は少し奥の露店の方が安いことも
参道には複数の花屋さんが高野槙を販売していますが、入口付近よりも少し奥まった露店の方が、価格が控えめなこともあります。
もちろんお店によって差はありますが、時間に余裕があれば何軒か見比べてみるのも良いかもしれません。
お得情報① 参拝も体験もすべて無料
これは大きなポイントですが、六道まいりへの参拝そのもの、そして迎え鐘を撞く体験まで、すべて無料でできます。
高野槙や水塔婆に関する志納(お布施)程度の実費はかかりますが、拝観料などは一切不要です。
京都の伝統行事を無料で、しかも自分の手で体験できるというのは、観光としてもかなりお得だと思います。
お得情報② 御朱印集めも楽しめる
六道珍皇寺では、薬師如来・閻魔大王・小野篁など、複数の種類の御朱印が用意されています。
特別拝観期間には、限定の御朱印帳や授与品が登場することもあります。
個性的な「閻魔みくじ」なども揃っているので、参拝の記念にぜひ手に取ってみてください。
服装や持ち物、当日の注意点
8月上旬の京都は、盆地特有の強い暑さと蒸し暑さで有名です。
日中にお参りする場合は、必ず日傘や帽子、こまめな水分補給を心がけてください。
境内は舗装されていますが、参道は多くの人で賑わうため、歩きやすい靴で行くことをおすすめします。
また、この行事は観光イベントである以前に、京都の人々にとって大切な宗教行事です。
線香の煙が漂う境内では、大きな声で騒いだり、記念撮影に夢中になりすぎたりせず、静かな気持ちでお参りすることを心がけていただければと思います。
迎え鐘を撞く際も、参拝者が並んでいますので、順番を守って譲り合いながら体験してください。
まとめ
六道まいりは、京都の人々が千年以上にわたって大切に受け継いできた、心温まる祈りの行事です。
祇園祭のような華やかさはありませんが、その分、静かで、深く、そしてどこか懐かしい気持ちにさせてくれる、京都らしい夏の風物詩だと思います。
8月7日から10日という短い期間限定の行事ですので、この時期に京都を訪れる予定がある方は、ぜひスケジュールに組み込んでみてください。
高野槙を買い、水塔婆に思いを込め、迎え鐘を撞く。
このひと通りの体験を通して、京都の人々が大切にしてきた、目には見えないものへの敬意を感じ取っていただけたら嬉しいです。
清水寺や六波羅蜜寺とあわせて巡れば、東山エリアの奥深い魅力を、より一層味わえるはずです。
この夏はぜひ、六道さんに会いに、京都・東山へ足を運んでみてください。
基本情報
- 行事名:精霊迎え 六道まいり
- 会場:六道珍皇寺(京都市東山区)
- 日程:毎年8月7日〜10日
- 時間:6:00〜22:00頃(年によって変動あり)
- 料金:参拝無料
- アクセス:市バス「清水道」下車 徒歩約5分/京阪「祇園四条」駅から徒歩約10分
- 公式サイト:六道珍皇寺公式ホームページをご確認ください
※日程・時間・料金は変更になる場合があります。お出かけ前に必ず公式情報をご確認ください。
