京都の通が選ぶ手土産。
塩芳軒の『聚楽』が愛され続ける理由、
「店舗限定の希少な一品」
京都には数多くの老舗和菓子店がありますが、その中でも「西陣の塩芳軒(しおよしけん)」の名は、特別な響きを持って語られます。
織物の街として栄えた西陣。
その一角、かつて豊臣秀吉が築いた絢爛豪華な城郭「聚楽第(じゅらくだい)」の東端に位置するこの店は、単なる和菓子店を超え、京都の文化そのものを守り続ける存在です。

「京菓子」とは何か — 塩芳軒のものづくりの精神
塩芳軒が大切にしているのは、単に甘いものを作ることではなく、京都という土地の風土や暮らし、季節の移ろいを味と形に表現することです。
京都は四季がはっきりしており、それぞれの季節ごとの行事や食文化が深く根付いています。
塩芳軒では、この京都らしい季節感を和菓子に反映させることを重視しており、春は花見菓子、夏は涼を感じる水菓子、秋冬は温かみのある和菓子類を揃えるなど、季節ごとの味わいを届けることを一貫して続けています。
また、熟練の職人たちは材料の持ち味を損なわないよう、素材選びにも厳しい目を持っています。例えば砂糖や小豆、餅粉などの基本材料についても、産地や品質にこだわり、素材の良さを最大限に引き出す工夫をしています。
また、塩芳軒の本店建築は 大正初期に建てられた歴史的意匠建造物 としても評価されており、京都の街並みに溶け込む和の佇まいそのものが、訪れる人の心を引きつけます。

塩芳軒の歴史:饅頭の祖から続く「別家」の誇り
塩芳軒の創業は、明治15年(1882年)に遡ります。
初代当主は高家芳次郎(たかや よしじろう)氏。
実は塩芳軒のルーツは、江戸時代から続く名店「塩路軒(しおじけん)」にあります。
初代・高家芳次郎がこの「塩路軒」から別家し、西陣に店を構えたことが始まりです。
「塩路軒」の「塩」と、初代・芳次郎の「芳」を合わせて「塩芳軒」。
この名には、偉大な先人の技を受け継ぎながら、自らの代で新しい歴史を切り拓こうとする意志が込められています。
創業以来、京都の風土や季節の移ろいを菓子に写し取る「京菓子」の伝統を、一歩も引かずに守り続けてきました。
現在は五代目当主・高家啓太氏が、その精神を現代に繋いでいます。

建築と意匠:大正の空気感を纏う「登録有形文化財」
塩芳軒を訪れる人々がまず目を奪われるのが、その圧倒的な店構えです。
黒門通に面して立つ店舗は、大正初期に完成した京町家(表屋造り)。
京都市の「景観重要建造物」や「歴史的意匠建造物」にも指定されており、一歩足を踏み入れるだけで、タイムスリップしたかのような静謐な空気に包まれます。
「ヨ」が4つで「しおよし」? 遊び心溢れる紋
注目していただきたいのは、軒先に下がる黒染めの長暖簾。そこには屋号の「塩」の字をモチーフにした紋が白く抜かれていますが、よく見るとその周囲をカタカナの「ヨ」の字が4つ囲んでいます。
「ヨ」が4つ、つまり「しお(4)・よし」。
創業以来の伝統の中に、京都人らしい洗練された「洒落(しゃれ)」が効いています。
こうした細かな意匠のひとつひとつに、歴史の厚みと遊び心が同居しているのが塩芳軒の面白さです。
店内は、磨き込まれた重厚な棚や、季節の上生菓子が並ぶガラスケースが、仄暗い空間の中で美しく浮かび上がります。
自動ドアでありながら、その動きすらゆったりと感じさせる不思議な引力を持った空間です。

代表銘菓「聚楽(じゅらく)」:素朴にして至高の逸品
塩芳軒の名を全国に知らしめているのが、看板商品の焼菓子『聚楽(じゅらく)』です。

「名前の由来とこだわり」
この地が豊臣秀吉の「聚楽第」跡地であることから命名されました。
金箔瓦が輝いたという豪華な城の記憶を、あえて真逆の「素朴な焼菓子」として表現した点に、店主の美学が光ります。
- 生地の食感:
和三盆の蜜を練り込んだ生地は、しっとりとしながらも独特の香ばしさがあります。 - 専用の餡:
中に入っている「こし餡」は、この『聚楽』のためだけに炊き上げられた特別なもの。
焼き饅頭特有のパサつきを一切感じさせず、口の中で生地と餡が同時にホロリと解けていく一体感は、まさに職人技の結晶です。 - 「天正」の刻印:
表面には、聚楽第が築かれた時代の年号「天正」の文字が押されています。

本店では1個売りのほか、8個入りの詰め合わせ箱入り商品もあり、お土産や贈答用にも人気です。
実はこの『聚楽』、百貨店などでの取り扱いは少なく、基本的には本店でしか手に入らない希少な一品。
京都を訪れるなら、わざわざ足を運んででも手に入れる価値のある、究極の「手土産」です。

干菓子の革命児「雪まろげ」:口の中で消える魔法
もうひとつ、現代の和菓子ファンを虜にしているのが、和三盆の干菓子『雪まろげ』です。
「雪まろげ」とは、雪玉を転がして大きくしていく雪遊びを指す古語。
その名の通り、真っ白で小さく丸いお菓子が箱の中に端然と並ぶ姿は、見るだけで心が洗われるような美しさです。
- 驚きの口どけ:
口に含むと、まずは和三盆の優しい甘みが広がり、次の瞬間には「スッ……」と雪のように消えてなくなります。 - バリエーション:
定番の「白」と「抹茶」があり、最近では「紅白」のセットも人気です。 - パッケージ:
手のひらサイズの小箱に収められており、洗練されたデザインは、若い世代への贈り物としても非常に喜ばれます。
和菓子における「引き算の美学」を体現したようなお菓子です。
四季を愛でる「上生菓子」
塩芳軒の真骨頂は、茶席でも重用される季節の上生菓子にあります。
京都の和菓子は、五感(味、視覚、触覚、香り、そして菓銘を聞く聴覚)で楽しむもの。
塩芳軒の生菓子は、あえて写実的に作りすぎず、食べる人の想像力に委ねるような「余白」のある意匠が特徴です。
- きんとん:
大地を覆う雪や、秋の山々を表現した繊細なそぼろ。 - 羽二重:
赤ちゃんの肌のように柔らかく、吸い付くような食感。 - 季節の移ろい:
2週間ごとにラインナップが入れ替わるため、いつ訪れても新しい発見があります。
季節商品・定番商品いろいろ
■ 水羊羹・涼菓詰め合わせ
夏の定番として人気なのが、水羊羹や各種涼菓の詰め合わせ。
この詰め合わせは、夏の贈答や御中元にぴったりの一品です。
内容は以下のような多彩な味わいで構成されています。
- 水羊羹(和三盆使用)
- 抹茶羹
- 梅羹(梅の風味)
- 柚子羹
- 橘羹(金柑)
- 甘夏羹
- 林檎羹
- 桃羹
という全8種入りで、それぞれの素材の香りや甘味が上品に引き立てられた涼菓になっています。
どれもみずみずしい口どけと優しい甘さが特徴で、暑い季節でも食べやすい和スイーツとして根強い人気があります。
■ 羊羹
塩芳軒の羊羹は、昔ながらの製法でじっくり練り上げられた逸品です。
ラインナップは次のように複数の味が用意されています
- 大納言 … 京都産の大納言小豆を使ったこし餡の羊羹
- 本煉(ほんねり) … 伝統的な煉り羊羹
- 抹茶 … 抹茶の風味を大切にした緑色の羊羹
どれも素材の香りと甘味が調和しており、お茶請けとしても最適です。
■ 干菓子「小口」「さざれ石」など
伊勢丹京都店などの百貨店でも扱われることがある干菓子も人気です。
■ 小口
大徳寺納豆入りの落雁(らくがん)。
落雁の上品な甘さと京の風味が楽しめます。
■ さざれ石
和三盆糖を固めた口どけの良い干菓子。
見た目も砂利のようで愛らしく、手土産にもおすすめです。
久里最中、丸最中
餡の美味しさを楽しめる最中もおすすめです
久里最中
美味しい餡に、きざんだ栗が入っています



丸最中
大粒の京都大納言を贅沢に使用



店舗詳細
塩芳軒の本店は京都市上京区の西陣地域にあります。
■ 本店
御菓子司 塩芳軒
〒602-8235 京都市上京区黒門通中立売上ル 飛騨殿町180
TEL:075-441-0803
営業時間:9:00〜17:30
定休日:日曜・祝日・月1回水曜日(不定)
京都へお出かけの際は、ぜひ地下鉄やバスを乗り継いで、西陣の街歩きと共に訪れてみてください。
【ワンポイントアドバイス】
本店でしか買えない商品(聚楽など)は、夕方には売り切れてしまうこともあります。
確実に手に入れたい場合は、事前に電話で予約をしておくのがおすすめです。
塩芳軒の魅力 — 伝統と現代の融合
塩芳軒の魅力は、まさに 「伝統を守りながらも現代の生活に寄り添う和菓子づくり」 にあります。
創業から140年以上の歴史の中で、京菓子という文化は大きく変わってきました。
しかし、塩芳軒はその伝統の根幹を守りながら、季節や素材の声を丁寧に聞き、現代の生活者にとっても食べやすい和菓子として表現し続けています。
例えば詰め合わせギフトや百貨店で扱われる商品ラインナップなど、本店以外での販売展開も積極的に行い、京都土産としての需要にも応えています。
また、直営以外の店舗を通じて関東圏でも取り扱いがあるなど、京都を飛び出して塩芳軒の味に触れる機会が増えている点も現代ならではのスタイルです。
最後に — 塩芳軒の和菓子が教えてくれること
塩芳軒の和菓子は、単なる甘いお菓子ではありません。
それは京都の風土や季節、そして創業以来大切にされてきた職人の「想い」を乗せた文化そのものです。
一口ひとくち味わうたびに、京都の歴史や暮らしの豊かさを感じることができる —
そんな和菓子こそが、塩芳軒が長年人々に愛され続ける理由でしょう。
京都・西陣の静かな通りで、黒い暖簾をくぐり、自分だけの一品を選ぶ。
そんな贅沢な時間を、ぜひ次回の京都旅で味わってみてください。
