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「凍てつく空気に、祈りが溶ける 」一月、金戒光明寺 (くろ谷さん)の静寂を歩く

1月の京都は、底冷えがする。
華やかな賑わいを見せた「事始め」から正月三が日が過ぎ、街がふと息を吐いたような静謐な空白の時間が訪れます。

多くの観光客が嵐山や清水寺へと流れていく中、黒谷(くろだに)さんと親しまれる「金戒光明寺(こんかいこうみょうじ)」の境内は、まるで時間が止まったかのような静寂に包まれています。

今回は、冬の陽光が石畳を淡く照らす、1月の金戒光明寺の情景を綴ります。


凍てつく空気に溶ける、黒谷の静寂

岡崎のなだらかな坂道を登り、巨大な高麗門をくぐると、そこには下界とは切り離されたような澄んだ空気が漂っています。一月の京都の風は、刃物のように鋭く、それでいて不思議と心地よい。

金戒光明寺は、法然上人が初めて念仏の道場を開いた地。
浄土宗の「最初門」としての威厳が、冬の枯れた景色の中でいっそう際立ちます。見上げるほどに巨大な「山門」は、冬の高く青い空を背景に、どっしりと、それでいてどこか寂しげに佇んでいます。

春には桜が、秋には紅葉が、この山門を鮮やかに彩ります。
しかし、木の葉がすべて落ち尽くし、枝の細かな筋までが露わになった冬の姿こそ、この寺の真の骨格を見ているような気がしてなりません。装飾を削ぎ落としたモノトーンの世界。そこには、ただ「在る」ことの強さが満ちています。

石畳に落ちる、長い影

境内を歩く人の影はまばらです。聞こえてくるのは、自分の履物が石畳を叩く乾いた音と、時折、木々を揺らす風の音だけ。

御影堂へと続く石段を一段ずつ踏みしめると、冷気が衣服を通り抜けて肌に伝わります。
しかし、その冷たさが、雑念で濁った心をゆっくりと濾過してくれるように感じられます。1月の太陽は位置が低く、建物の影を長く、濃く地面に描き出します。光と影のコントラストが境内の立体感を強調し、まるですべてが精巧な水墨画の中に迷い込んだかのような錯覚を覚えます。

御影堂の中へ入ると、さらに一段深い静寂が待っています。
線香の香りが冷たく止まった空気の中に漂い、読経の声がなくてもそこには何世紀にもわたって積み重ねられてきた「祈り」の厚みが漂っています。冷え切った床の感触が足の裏から伝わり、身が引き締まる思いがします。ここで静かに手を合わせると、自分の吐息さえもが仏様への供え物のように思えてくるから不思議です。

アフロ地蔵と、冬の慈悲

金戒光明寺を訪れる人が必ずと言っていいほど足を運ぶのが、通称「アフロ地蔵」こと、五劫思惟(ごこうしゆい)阿弥陀仏像です。

気の遠くなるような長い時間、人々を救うために思惟を巡らせた結果、髪の毛が伸び放題になってしまったというお姿。1月の厳しい寒さの中で見るそのお地蔵様は、心なしかいつもより慈愛に満ちて見えます。

吹きさらしの石段の脇で、文句ひとつ言わず、ただ静かに座り続ける。
そのお姿は、冬の厳しさに耐え、じっと春を待つ私たちの姿を全肯定してくれているようです。誰もいない墓地へと続く道で、このお地蔵様と対峙する時間は、自分自身と対話する時間でもあります。

「急がなくていい。ただ、そこに居ればいい」

そんな声が、冬の風に乗って聞こえてくるような気がします。


文殊池に映る、冬の空

山門のそばにある「文殊池」の辺りに立つと、水面は鏡のように静まり返っています。
夏には蓮が咲き誇るこの池も、今は枯れた茎がわずかに水面に顔を出しているだけ。しかし、その水面が映し出すのは、一寸の曇りもない一月の青空です。

冬の京都の空は、他の季節よりも高く、深い。
吸い込まれそうなその青を、冷たい水が受け止めている。華やかな色彩がないからこそ、私たちは「青」という色の深さを、初めて正しく認識できるのかもしれません。

池のほとりに立つ木々は、すべての葉を落とし、裸のままの姿で立っています。
それは一見、死んだように見えるかもしれませんが、その内側では春に芽吹くためのエネルギーをじっと静かに蓄えている。
金戒光明寺の境内全体が、今は壮大な「休息」の中にあり、来るべき生命の爆発に向けて呼吸を整えている。その静かな躍動感こそが、1月の黒谷の魅力なのです。

結びに:1月の黒谷が教えてくれること

参拝を終え、再び高麗門を出て岡崎の街へと戻る頃、体はすっかり冷え切っています。けれど、心の中には、何にも代えがたい「静謐」というお土産が残っているはずです。

観光地としての京都ではなく、祈りの場としての京都。 1月の金戒光明寺は、騒がしい日常で磨り減った心を、優しく、けれど厳しく包み込んでくれます。

もし、あなたが自分を見失いそうになったり、ただ静かに自分を整えたいと願うなら、ぜひ1月の、この静かな境内を訪れてみてください。そこには、凍てつく空気と、長い影と、そして確かな慈悲が、あなたを待っています。

京たび

こんにちは!
京都生まれの京都育ち。
現在も大好きな京都で生活をしています。

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